2009-05-08

ダッハウ



 3月の研究会の参加は、自分にとってのはじめてのドイツ行きの機会でもあって、もし時間さえあればいろいろな場所に行ってみたかったのだが、大学の新年度も始まってしまうので十分それもかなわなかった。それでも、せっかくのチャンス、せめて飛行機の着くミュンヘン近郊で尋ねるところはないかと友人に聞くと、それならと紹介されたのがダッハウの強制収容所だった。
 ナチズムのユダヤ人迫害についてはたくさんの本があるし、自分もフランクルの『夜と霧』をはじめ何冊かの本でよく知っていたから、ぜひ訪れてみたいと考えていたところだった。強制収容所といえばアウシュヴィッツはあまりに有名だが、ダッハウは各地に作られたキャンプの初めの一つで、これがいわばモデルになったという場所。ミュンヘンからは電車とバスで小一時間というところだろうか。写真はその収容所の入口である。かつては、ここまで鉄道が敷かれ、この入口のところまで貨車でつくと、大勢のユダヤの人たちがすぐにこの扉をくぐらされ、登録と検査を受けてすべての物を奪われて、二度とここから出ることができなかったのだと、そう思うだけで何か重たい空気に包まれる場所だった。折しも雪模様であったから、暗い雲の下に立って心も体も凍えるような時間になった。
 『悼む人』の中に、大勢の人の命がうばわれる戦争の惨劇を経験したジャーナリストが「静人」の悼みを揶揄するような場面があったが、この場所にきて、いったい一人ひとりのいのちを悼むなどということはたしかに不可能だというのが実感される。しかし、同時にここで奪われたいのちにどんな風に向き合うものであり得るのかと問いただされるのもまた事実だ。
 

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