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2016-07-30

『星の王子さま』

サン・テグジュペリの名作。大学のとき、フランス語のテキストだった。

                  
 三つの火山とバオバブの木、一つのばらの花が咲いている小さな星の王子様。このばらがいろいろと王子を悩ますので、旅に出ることにする。さまざまな星に出かけていき、その星の住人たちと話しながら、新しい発見をする旅のなか、地球に到着する。
 そこに火山もばらも見つけた王子様は、自分の星がひどくつまらなく感じられてくる。でも、そこに新しい出会いがあって、王子様はそれまでと世界の見方が一変する。
 出会ったのは、一匹のキツネ。このキツネとのやり取りはこの作品で最も有名な箇所だ。是非読んでほしい。
 キツネは「仲良くなること」、「ひまつぶし」といわれるような、何かを目的にした成果を求める時間ではない、ただ、その人とともに過ごす時間、その人のために費やす時間を重ねることで、その相手は他の存在と比べることの出来ない、かけがえのない存在となることを教える。それはまた、自分をかけがえのないものとすることでもあるのだ。そして、そうやって人と過ごすことで、人にはその人にしか見えない特別な意味の世界が広がってくることを教える。王子さまと仲良しになったキツネは、別れを悲しんで涙が流れる。悲しみが結果するなら、仲良くなんかならなければよかったのか。いいや、そのかけがえのない出会いによって、黄金色にかがやく麦畑は、キツネにとってこの王子様を思い出させる特別な意味を持つようになる。つまり、この関係を生きたことが、世界の存在の意味をかえるのだ。
 大切なものは…という有名なことばだけでなく、一読して、それぞれに考えてみてほしい。意味ある世界もかけがえのない自分も、関係によって、うまれてくるのだ。何かについて優秀だからでもないし、すばらしいものをつくれたからでもない。歴史や社会で活躍できたからでもない。その存在を共にすること。その人と生きること、その人のために生きること。互いが、互いをもつことでこそ、各々のかけがえのなさがそこに実感される。
 
 

2011-09-09

大学生への推薦図書⑩ ミヒャエル・エンデ『モモ』

エンデの代表作『モモ』
豊かさを実現するはずの現代世界(資本主義の世界)が、人間を貧しくする。「灰色の男たち」が、密やかに人間の時間を奪っていく。気づかないうちにその人間性が失われる世界とどう立ち向かうべきなのか。モモを代表とする、子どもたちの持つ可能性を新たに見いだす。
人間とはなにか。時間的存在としての私に気づくことからわたしであることを取り戻す格闘が始まるのかもしれない。



児童文学だけれど、深い思索によって捉えられた真実に出逢うだろう。これを読んで、今を生きる自分という存在、その時間性というものが見えてくる。『時間論』への扉が開かれる。

2011-08-10

大学生への推薦図書⑨ 森岡正博『宗教なき時代を生きるために』

現代日本の精神状況とその中で「生きること」の問題と真摯に向かい合う森岡正博氏の小論集。
オーム世代と言ったらよいのか。森岡氏自身も含め、50年代の終わりから60年代の初めに生まれた者たち(私もその中の一人)は、95年のあの事件のさなかテレビに映し出されたカルト集団の中に「自分」の影を見出す世代だ。その彼が現代をどのように見つめているのか。また、どのように「いきる」こと、生命の問題に取り組むのか。その姿勢がよく示された一冊である。



授業でもとりあげている、示唆に富むものだ。

2011-08-08

大学生への推薦図書⑧ 石牟礼道子『苦海浄土』

自然を破壊し、いのちの苦しみを生み出した「チッソ」。大資本の産業構造と人間社会のひずみ、そのもとに言葉を奪われていく民衆の深いさけび。水俣病の被害地に身を置いて、そのすべてについて、透徹したまなざしを注ぎ、力強い筆で記した文学的記録。



大学時代に手にしたこの作品は、私のこころの奥深くに、絶望と希望のありかをさぐらせる土壌の一つとして宿っている。
たとえば、日本で大きな独占的企業が政治的力を巻き込んで、小さく、弱い人々の生活に多大な被害をもたらしているときに、たとえば中国で大きな事故があって、その責任のゆくえがくらまされる時に、この記録が教えるものは大きい。
私たちは何を見ているのか。遠く離れてしまえば、あたかも何も関係のないように生き得る私自身を持て余すほどに、私たちの心は彷徨うのだ。私はどこに立つのかと。
そんな問いかけをもたらす一冊。

2011-05-08

大学生への推薦図書⑦ ヴァイツゼッカー 『荒野の40年』

歴史に生きる私たちが、この歴史の中で何を心に刻むのか。
戦後40年という節目に、ドイツの大統領が語った演説。
今年、戦後66年目に、私たちは改めて歴史を心の刻むということの大切さを知らされている。あの原爆の恐ろしさを体験したことは、いったいなんだったのか。ただ、国と国との戦争とか敗戦という視点ではなく、人間、科学信仰、経済優先の社会、人間の権力などが何を生み出していくのかということを見通していく眼差しが歴史をしっかりと見つめること。その時にかたるべき言葉は何かが考えさせられる。



自分が神学大学に進んだ年。1985年のもの。今年、改めて読んでみて、新鮮な響きをもった。

2011-05-02

大学生への推薦図書⑥ レイチェル・カーソン 『沈黙の春』

自然と人間の関係を考察するのには欠かせない一冊。
現代の生活の中に用いられる化学薬品がどれほど自然を破壊し、いのちを脅かすものか。その恐ろしさを突きつけられる。



この本も高校時代に生物の先生に勧められたものだった。もう古いと言われてしまうかも。

2011-04-28

大学生への推薦図書⑤ プラトン 『ソクラテスの弁明』

ギリシャ哲学の古典、プラトンの作品。「汝自身を知れ」、「無知の知」などの言葉で知られるソクラテスの思想と活動の内容をよく伝える一冊だ。対話の中からより真実なものへと向って尋ねて求めていくソクラテスの手法に、理性をもって考えるということあり方について知らされる。
ギリシャ哲学が、世界の成り立ちを探ってきた自然哲学から、人間自身を問い、真善美を求める価値や生き方の問題へと転換していく出発点となったソクラテスを味わえる。




高校の「倫理」の授業で読んだのがはじめの出逢い。近年、哲学入門の授業を担当して改めて読み直した。古典として是非目を通してほしい。

2011-04-20

大学生への推薦図書④ V.E.フランクル『夜と霧―ドイツ強制収容所の体験記録』

筆者自身のアウシュビッツの経験を、精神医学者としての書き記したもの。人間が非人間的に扱われ、生きる希望を奪い取られ、人間ならざる者となっていく様が克明に観察される。その現実の只中で、なお人間として生きるために何が必要なのか、どんな可能性が人間にはあるのか。私たちの生きることの深みを探っていく道案内となる。



今も、授業では必ず取り上げる一冊。
霜山先生の翻訳は格調があるけれども読みにくいという方には、新訳が出ている。

2011-04-16

大学生への推薦図書③ 大塚久雄『生活の貧しさと心の貧しさ』

経済学者、大塚久雄の講演・対談などを集め編んだもの。出版から30年を経ても、現代を捉える視点は示唆に富んでいる。高度経済成長を遂げた日本社会の「精神的貧困」を目の当たりにして、生きることへの真摯なあり方を率直な言葉で語っている。別の著作には、「意味喪失の時代」について語ったものもあるが、この著作の中にも、そうした時代の中に生きる私たちにとって何が本当に求められるのか。あるいは、聖書が何を語っているのかということを丁寧に語りかけている。



この本も、大学生の時に手にとって読んだ。キリスト者として社会科学者として生きる筆者の誠実な言葉に目が開かれた経験を思い出す。矢内原忠雄、森有正、湯川秀樹、内田義彦らとの対談も読みごたえがある。

2011-04-15

大学生への推薦図書② 岡本夏木『子どもとことば』

「ことば」をもつということが、人間を人間たらしめるとさえいわれるが、いったい「ことば」とは何か。子どもの発達過程の中で「ことば」がどのように獲得されていくのか、それがどのように人格的存在としての人間の中で機能するのか。「ことば」への深い理解を、発達という視点から与えてくれる一冊だ。
人間が世界に関わる根源語は「我とそれ」「我と汝」の二つだと言ったのはマルティン・ブーバーだが、この本を読むと、そうした世界との関係のあいだに「人」がかいされて、関係が構築され、広がっていくものであるという「三項関係」をとらえる視点を教えられる。人間は、「他者」との関係を軸にして「わたし」を形成する存在なのだ。


教育を専攻していた時代に読んだもの。私自身の人間理解に大きな影響をもった一冊。

2011-04-07

大学生への推薦図書① 丸山眞夫 『日本の思想』

すでに古典の一つといってよいだろう。
日本人の思想の「雑居性」や「無限抱擁性」、また「タコツボ型文化」などの言葉は、日本人である私たちがどのような性質を持っているのかをさぐるのによい示唆を与えてくれる一冊だ。



私自身は、大学生の時に手にした。30年以上たった今も、折に触れて手に取って読み返す一冊である。