生命学を提唱し、「いのち」の問題に真摯に向かい合う森岡氏のエッセイ集。
半数近くは、2010年度に書かれたものだが、半分は3・11を経験した私たちが「生きる」ということについて抱く深い問いと困難を正面にすえながら書かれたエッセイだ。
「誕生肯定」「哲学的アニミズム」など新しい概念を用いながら、これまで宗教的な言葉でのみ語られてきた「生きること」の深みにある問題への答えを模索する。森岡氏は、宗教を否定はしないがそれ以外の道で確かな言葉を、自分の頭で考えながら、紡いで行かなければならないという使命感にも似た思いを持っている。かねて「無痛文明」という言葉によって、現代社会の文明批判を展開して来た思いも改めて確認しつつ、私たちの世代が経験してきた「いのち」への問いに取り組んでいる。
以前紹介した『宗教なき時代を生きるために』に記されているように、氏は決して宗教嫌いではない。しかし、敢て宗教を選ばない道を選んだと言う。だからこそ、「死」という現実を見据えながら、生きる意味を問い、死をこえた「いのち」の豊かさをみいだそうとする営みは「生者」と「死者」との交流、その共生の形を見いだす試みに至っている。「脳死」の問題に深く関わってきた氏の視点は、単なる科学的な生命活動や活動主体としての個人に留まるのではなく、他者との関係の中でこそ生きるものである人間の生の「まるごと」を見ようとする。
はじめて示された「哲学的アニミズム」という視点は、未だ熟していないが、どんな風に結実してくるだろうか楽しみでもある。
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