2013-09-23

神学生の必読書① 『キリスト者の自由 訳と注解』

神学生(ルーテル)に向けて、推薦する本を紹介していきたい。
その第一冊目は、徳善義和先生が書いてくださっている、マルティン・ルターの古典的名著である「キリスト者の自由」の翻訳と解説の書だ。

                                                                    

 本書は、はじめ新地書房という出版社から30年ほど前に『全訳と吟味』として出版されたものだ。後に、出版元がなくなって教文館から、もともとの副題であった「愛と自由に生きる」をタイトルにして再度出され、さらに構成を改めて2011年に今の形で出版されたのだったと思う。

 ルターは、当時のアカデミズム世界のラテン語でも神学的著作を続けたが、同時に信仰の事柄を一般の人々とも分かち合うためにドイツ語でも著した。幾つかの著作はその両方で出版されている。1520年に著した「キリスト者の自由」もラテン語、ドイツ語両方で書かれている。内容は基本的に同じものだけれども、言葉の違いは当然に異なるところがあるということだ。ルター本人がもともとどちらの言葉で考え、書き下ろしたのか。これには議論が分かれる。しかし、少なくとも、ルターが母語であるドイツ語で、また一般の人たちにも分かち合うことを考え、書いている場合に、より中心的なメッセージが伝わってくるということもあるだろう。自分たちの言葉で、神様の言葉に取り組む。これはルターの基本的な信仰の姿勢だった。だから、聖書のドイツ語翻訳にも取り組んだ。自分たちの生きている、その生活の只中で、その言葉で神様の言葉を受け取っていく。ここには、神学ということの一番大切なことがあると言ってよいだろう。

 日本でルターの「キリスト者の自由」と言えば、岩波からだされている石原謙氏の翻訳が長く親しまれている。しかし、出版後、佐藤繁彦氏がこれにはかなり多くの批判を展開したらしい。ドイツ語訳といっても、現代ドイツ語からではなく、ルターの時代のドイツ語として読む必要があると言う点とラテン語本文との比較検討、ならびにルター著作全体からその主意を読み取っていくことが必要だということが、佐藤氏の石原氏への批判だった。佐藤繁彦氏はルーテル神学校で長く教えられたルター研究の第一人者だ。これもまた考えさせられることだ。時代の中で、言葉も変わる。その時代のコンテキストを捉えなければ、神学は生きたものとならないのだ。
 
 徳善先生のこの翻訳は、もちろん、16世紀ドイツ語、日本で言えば室町時代の古文ということになるが、そこからの翻訳、またラテン語との比較研究によって、新たな理解も拾い上げられている。
 さらに、その注解の内容は、長い徳善先生の研究と神学校での講義から生まれたと聞いている。教会の宣教という神学の現場や今日の日本というコンテキストにあって、徳善先生が取り組んで来られた成果がこの注解には込められているように思う。

 私が神学生になった年に、最初のものが出版されたので、入学時にいただき、以来の私の座右の書といっても良い。後にFEBCで先生がこの内容を丁寧にお話くださる放送をされた時、お相手役もさせていただいた。(http://lib.febcjp.com/ty101_t/
 神学生には必読の書。4年生までに、この解説をくまなく読通して、理解を深めてから自らの神学的研鑽を確認し、卒論に取り組んでほしい。

 

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