2010-05-20

『死生観の誕生』

前回に続くが、もう一冊紹介したい。
日本人の死生観が、その歴史状況の中でどのように形成されて変遷をしてきたのか、文学作品などを手掛かりに大野順一氏の深い洞察によって明らかにされている。
                 死生観の誕生
戦国時代の武士の戦場での死は、もはや老いや病気などによるものではなく、「争い・殺し合う」という人間の歴史のなかの出来事となった、不自然な「死」であるにも関わらず、それ以前から死ぬことをいいならわしてきた「自然(じねん)のこと」をそのまま用い続けている。これは、もはや「自然(じねん)」の概念が崩壊していることを意味しているといえよう。戦国のヒストリカルな出来事が日本の伝統的なコスモロジカルな概念を打ち崩していく様子を知ることができた。また、この戦国の武士が戦場で「無名(アノニム)の死」を死んでいくこと、そして還るべき場所を失った「故郷喪失」の体験をしていることなどの分析は現代のありようを考える上でも、非常に示唆に富む研究と思う。

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